これを一人で観たのは1月の半ばでしたが、なかなか記事にすることが出来ませんでした。
この映画はズバリ北朝鮮の脱北のドキュメンタリー映画です。
第96回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞のショートリストに選出され、サンダンス映画祭で観客賞を受賞している作品です。
そういう作品なのに東京でも3つの映画館でしか上映されていません。
私は池袋ルミネの「シネ・ルーブル」で鑑賞してきました。
大きく宣伝している訳でもないので、観られた方は限られているかもしれません。
(後で知ったのですが、A君が観ていました(◎_◎;))
脱北ってどんなルートを辿るかご存知でしょうか…
中国との国境には川があり、それを渡って助けてくれる人がいれば韓国に亡命できるのか?位に考えておりましたが全然違いました。
直接北から南に脱北する陸続きの山のルートには200万個もの地雷が埋められていて逃げることは不可能です。
韓国と北朝鮮の国境の街に住む牧師キム・ソンウンのところには、毎日何本もの電話がかかってきます。
脱北者からのSOSの電話です。
↑ 映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』公式サイトより引用させていただきました
彼はこれまでに1000人以上もの脱北者を手助けしてきました。
80代の老婆と2人の小さな女の子を含めた5人家族の脱北を牧師は手伝うことになります。
↑ 映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』公式サイトより引用させていただきました
中国からベトナムへ、そしてラオスを経てタイへ逃げる家族。
そこには旅行で行ったベトナムとは全く違う景色が広がっていて、とても怖い国の一つとして映っていました。
共産主義国であるベトナムやラオスもまた、中国同様に脱北者を見つけたら北朝鮮に引き渡す同盟を結んだ国なのです。
↑ 映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』公式サイトより引用させていただきました
唯一タイまで行けば彼らは救われるのです。
牧師は言います。「タイに渡ったらすぐに警察に捕まえてもらいなさい!そして亡命したと言いなさい。彼らに捕まればあなたたちは助かったことになるのです」
タイは立憲君主制国家であり、隣り合わせではあるものの、立場は全く違っています。
なので、ベトナムやラオスでは警察に捕まる訳にはいきませんが、タイに渡ったら早く警察に保護されて韓国への亡命者であることを言いなさい…ということです。
↑ 旅とは全く違うハノイの一面を観た気がします
これを撮ったのはコロナがまだ世界中に蔓延する前年のことで、今はこのルートも経たれているので秘密ルートの漏洩にはならないようです。
どこの国でも牧師は支援者と繋がっていて、支援者はお金目的で脱北を手伝ってくれます。
時間給なのかはわかりませんが、わざわざ遠回りをさせられるシーンがあり、おばあちゃんの足を思うと悲しくなります。
北朝鮮の恐ろしさを扱った作品は「トゥルーノース」というアニメで以前にもご紹介したことがあります。
↓ その記事はこちら
北朝鮮のトップが「洗脳」によって国民をコントロールしている(統制している)ことがこの映画ではもの凄くリアルに響いてきます。
- 「他の国はもっと悲惨なことになっている」
- 「自分達が情けないから国が豊かにならない」
- 「総書記は若くて立派で聡明な方なのに国民がダメなのだ」
どうしたらこんな風に思ってしまうのか…それが洗脳教育の恐ろしさだと思いました。
数日前に記事にした「あの花の咲く丘で、君とまた出会えたら。」
この戦時下の日本もまた、ある種の洗脳教育の下で「戦争で勝利する日本」を思い描いて国をあげて戦っていたのかもしれません。
日本は負けたから、国民は現実をしっかり見る機会を与えられたとも言えるかもしれない…。
このドキュメンタリーでは脱北家族の裏で、もう一組の親子(母と息子)の物語も同時進行しています。
息子に会えることを楽しみにソウルで暮らす母が脱北の成功を祈っていますが、息子は連れ戻されました。
その先には恐らく「死」しかないように思えます。
↑ 映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』公式サイトより引用させていただきました
明暗を分けたのは何だったのでしょう…。
お金を払い、ブローカーを頼った部分は一緒でした。
北朝鮮の国民も生きることに必死で、政府に対してはある意味無関心になっています。
私達は今、世界にも日本の政治にも無関心になってはいないだろうか…。
そんなことも考えるきっかけにもなった映画です。
↑ アジアは広い…4か国も超えていく脱北って…
キラキラしたソウルの街を車窓から眺めたおばあちゃんの言葉が忘れられません。
「脱北するならもう少し若い頃にしたかったよ!」
綺麗な洋服、アクセサリーを身にまとった若者の姿、煌びやかなネオン…。
経験できなかった青春を孫娘の二人はきっと体験することができるのではないでしょうか…。
「命の危険に常に晒されていないこと」これが本当の幸せなんだと思いました。